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第12回:サウンドアーティスト mamoru


日常が持つ多面性を、表現する(2)

 

『サウンドアーティストが誕生するまで』

 


武藤 mamoruさんは、ニューヨークの大学に留学していますよね。その時期に人生の転機を迎え、アーティストへの道を歩むことになったんですよね。

dialogue_with_sis_vol12_04.jpgmamoru 実は、ジャズピアニストを目指していたんです。でもがんばり過ぎちゃって腱鞘炎になってしまい、演奏家としての道は断たれてしまいました。半分絶望、半分自由、といった状態でしたね。この先自分には何ができるだろうと色々模索した結果、やはり行き着いたのが「音」だったんです。元々、身の回りで鳴っている様々な音、例えばキッチンで言えば冷蔵庫の音とか電子レンジの音とか、人によってはノイズにしか聞こえないか、そもそも鳴っていることすら意識しない音を気にするタイプでした。それを素材に表現をしてみようと思ったんです。それまでナローレンジで考えていた「音」を、もっとワイドに捉えてみようって。

武藤 夢だったことが絶望的になった時に、半分自由になったと思うところが素敵ですね(笑)。そこからすぐに未来に向かって考えてみる、自分がやってきたことの根本的な価値は何だろう? これまでの経験から興味が持てることは何だろう? と。挫折を好機に捉えるところは、ぜひ若い表現者達に見習ってほしいところですよね。ところで、最初から、今のような表現スタイルだったんですか?

mamoru いえ、最初は、日常で起こる様々な音を録音してサウンドインスタレーションをしたり、それを流しながら自分で演奏したものをサンプリングして重ねるといった、割とサウンド寄りの作品をつくっていたんです。いまの方向へと舵を切るきっかけは、2006年でした。アルメニアで開催された展示に参加し、かなり大規模なサウンドインスタレーションを作りました。セットアップもうまく行き、準備は万端、展示も開始後も良い滑り出しだったのですが、会期中に停電が起きてしまった。その時、「自分の作品は電気に頼っているんだ、電気がなかったらアーティストじゃないんだ」と気付いて、ピアノが弾けなくなった時と同じくらいの衝撃を受けたんです。

武藤 なるほど......。実際に停電が起きた時、会場はどんな様子だったのですか。

mamoru もう笑っちゃいましたね。暗くした部屋で、アクリルのスピーカーから流れるサウンドを聴いてもらう作品だったのですが、肝心の音が出ないものだから、部屋に入った人はみんな、「何だこれは、ZENの部屋か?」という反応で。

武藤 それはそれでやり過ごせそうですが(笑)。それにしても、mamoruさんのポジティブさには感心させられます。そんなに大きな発表の場で停電が起きたら、苛立ったり、悔しいと思うのが普通なはずなのに、自分の表現者としてのアイデンティティに疑問を感じ、それを突き詰めていく。そして、もう一段階進む必要を感じた訳ですね。

mamoru その通りです。あと、もうひとつ決定的だったのがリーマンショックでした。これまでの価値観が瓦解し、今後、どんなライフスタイルを模索していくべきかをリアルに考えさせられる中で、価値がないと思われていたものに価値を見いだす、というコンセプトを自分なりにプレゼンテーションする方法を必死で考えましたね。

dialogue_with_sis_vol12_03.jpg武藤 それで生まれたのが、ストローを吹く音だったり、透明ラップを丸めた時の音だったり、インスタントラーメンをつくる音だったり、普段は「音」と意識していないものを「音」体験にしてしまうという、『日常のためのエチュード』シリーズなんですね。これは確かに価値の転換をしているし、停電していても、アートとして成立しますしね(笑)。

mamoru そうなんです(笑)。以前、宮島達男さんから音の制作を頼まれたことがあるのですが、その時、「おめえさんは、ゼロからつくるタイプじゃねえな」と言われて、あっ、ゼロからつくるのがアーティストなのかと一瞬どきっとしたんです。でもすぐその後に、「自分が見ている世界をバンっとつくるやつもいて、お前みたいに指をさしているだけのやつもいていいんだよな」って言ってくれて。それで自覚が生まれて、極力つくらないという、逆の決意をしたんです。『日常のためのエチュード』というタイトルには、そんな思いが込められています。

武藤 「指をさす」という表現っていいですね。僕らの仕事も、まさにそんな感じです。ゼロからつくるというよりは、ものごとの誰もが気づかないところを指さしてみてあげることで、はっと気づかせて、その価値を認めてもらう、ということが僕らの役割だと思っています。

 

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<プロフィール>
mamoru(サウンドアーティスト)
1977 年大阪府生まれ。2001年、ニューヨーク市立大学卒業後、自作の音具や音響機材を用いた即興的なサウンドパフォーマンスや、マルチソース・マルチチャン ネル型のインスタレーション作品などを、国内外のギャラリーや美術館で発表。近年は、日常品から得られる音から作品を生み出す「etude」シリーズを主 に展開中。2011年「etude for everyday life/日常のための練習曲」を出版。http://www.afewnotes.com/


武藤新二/MUTO SHINJI
株式会社電通 汐留イノベーションスタジオ チームリーダー/クリエーティブディレクター
1992年、広告会社電通に入社。クリエーティブディレクション、コミュニケーションプランニング・商品ブランド開発設計、ソーシャルデザイン、メディアコンテンツ企画制作など、仕事の領域は多岐に渡る。2010年7月、電通社内に「汐留イノベーションスタジオ」を立ち上げ、社内さまざまなセクションから集まったクリエーター、プランナーを率いる。

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